オレオレ馬鹿


日曜の昼下がり、渋谷から阿佐ヶ谷行きのバスに乗った。車内はお年寄りが4人と若い男だけだった。発車した途端、右前に座った、今時珍しい柄物のパンツを履いているその若者が、大きな声でしゃべり始めた。

「オレ、オレ、オレだよわかる? 今から遊ばない?」
(おいおい、でかい声だな。バスの中で携帯なんて使うなよ。)
「ねえ、カラオケ行こうよ。」
(おい、昼間っからカラオケか?)
「なんだ、バイトか。バイトなんかつまらんもんヤメちまえよ。じゃあまた今度な。」(プチッ)
(お前も遊ぶよりバイトしろよ。やっと終わったか。)

「もしもし、オレ、オレ、オレだよ。そう。今から遊ばない?」
(おい、またかよ。それも別の携帯から。携帯二台も持ってどうすんだよ。)
「お前んちどこだっけ? 池袋? オレんち阿佐ヶ谷。メチャ近いじゃん。」
(近くない、近くない。)
「ダメ? 忙しいって? オレも忙しいんだけどさ。じゃ今度な。」(プチッ)
(うそつけ、暇人丸出しだぞ。)

今度しゃべりだしたら、注意してやろうかと思ったが、全ての指に指輪をしているので、殴られると痛そうだ。

「もしもし、オレ。そうオレ。今から遊ばない?」
(お前には友達はいないと思うよ。)
「昨日の晩の女どうだった? え? 男が出てきてボコられた? それって美人局(つつもたせ)じゃん。ヤベー。やっぱり男は身を慎まなければいかんよ。うん。」
(お前に言われたくないな。)
「じゃ、お大事に。」(プチッ)

そう言えば、話したくない相手から携帯に電話が掛かってきた時、わざと自分で妨害電波を出して、「すまん、電波が切れそうだ。」といって、通話を切る事のできる商品があった。ああいうのを手元に持っておけば、車内でうるさい電話をする奴の横に行って、そっと妨害してやることができる。そんなことを思いながら、私は降車口のステップに立った。すると私の後ろからまた大きな声で、

「オレ、オレ、わかる〜?」

こいつは阿佐ヶ谷に着くまでずっと電話し続けたのだろうか。

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